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東京高等裁判所 平成6年(ネ)2472号 判決

控訴人 株式会社西日本銀行

右代表者代表取締役 後藤達太

右訴訟代理人弁護士 作間功

三浦邦俊

植松功

李博盛

近江団

被控訴人 大阪商船三井船舶株式会社

右代表者代表取締役 生田正治

右訴訟代理人弁護士 阿部三夫

被控訴人 株式会社中国シッピング エージェンシィズ

右代表者代表取締役 幸前茂

右訴訟代理人弁護士 上原啓

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人大阪商船三井船舶株式会社(以下「被控訴人甲」という。)は、控訴人に対し、二一八〇万四七〇三円及びこれに対する平成三年九月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人株式会社中国シッピングエージェンシィズ(以下「被控訴人乙」という。)は、控訴人に対し、二一八〇万四七〇三円及びこれに対する平成三年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する被控訴人らの答弁

主文同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり改めるほかは、原判決事実摘示(第二 事案の概要)記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏二行目の「被告らに対し、債務不履行ないし不法行為による損害賠償を求めた事案である。」を「被控訴人甲に対し運送契約の債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償、被控訴人乙に対し不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。」と改め、同七行目の「によりこれを認める。」の次に「7の事実は当裁判所に顕著である。」を加える。

二  同四枚目表六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「7 そこで、控訴人は、被控訴人甲に対しては平成四年五月二〇日に、被控訴人乙に対しては平成五年八月一一日に、右損害の賠償を求める本件訴訟を提起した。」

三  同四枚目裏二行目の「証券所持人に対抗することはできない。」の次に「保証渡が商慣習として行われたことをもって、正当な船荷証券所持人に対する権利侵害が存在しないなどとは到底いえない」を加える。

四  同五枚目裏八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、本件保証渡に関し、被控訴人らに悪意または重過失があり、国際海上物品運送法(平成四年法律第六九号による改正前のもの。以下これを「法」といい、平成四年法律第六九号による改正後のものを「改正法」という。)一四条ただし書の「運送人に悪意があったとき」に該当するから、本件船荷証券約款二五条二項による免責の効力は被控訴人らには及ばないと主張するが、同法は、「一九二四年八月二五日にブラッセルで署名された船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約」を国内法化したものであるところ、同条約には免責につき悪意を例外とする規定はないこと、改正法一四条一項は改正前の法一四条ただし書を削除し、悪意の場合を例外としない立場をとるに至ったこと、除斥期間は客観的に判断すべきであって、「悪意」というような主観的要件になじまないことなどを勘案すると、右約款による免責の特約は、悪意の有無に係わりなく効力を有するというべきである。

なお、被控訴人らは、通常の商慣習に従い、本件保証渡を行ったのであり、従来、訴外会社との取引において特段のトラブルも発生していなかったのであるから、被控訴人らに悪意は存在しない。」

五  同六枚目表五行目から六行目にかけての「本件船荷証券約款五条は、全ての使用人、代理人は、運送人の利益のための本証券中の全規程の利益を享受する旨の規定があるところ、」を「本件船荷証券約款五条は、全ての使用人、代理人及び下請負人は、運送人の利益のための本証券中の全規定の利益を自らの利益のために享受することができる旨規定しているところ、」と改める。

六  同六枚目裏一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「また、船荷証券約款二五条二項の免責は、不法行為責任には及ばない。同約款は、契約責任に関する特約であり、免責が不法行為についてまで及ぶと解することはできないし、そのように解することは船荷証券所持人に不利益な特約を認めることになるから、法一五条一項により許されない。

法一五条三項は、船荷証券所持人等に不利益な特約を無効とする法一五条一項の規定は、運送品の船積前又は荷揚後の事実により生じた損害には適用しないとしているが、改正前の法が契約責任にのみ関する規定であることから、法一五条一項を前提とした同条三項も契約責任に関する特約の効力に関する規定であることが明らかであり、同条三項を根拠に運送人の不法行為責任に関する免責約款と解釈することはできないし、不法行為責任の免責を有効と解することもできない。運送人の契約責任に関する法一四条、商法五六六条三項が、ともに運送人悪意の場合の免責を否定していることに対比すると、約款二五条二項により、不法行為責任を一年間の除斥期間にかからせることは、合理的な均衡を著しく欠くことになる。

仮に、同約款の免責が不法行為責任について及ぶとしても、本件保証渡は、故意または重過失に基づく権利侵害であって、同約款が免責の対象として列挙する運送品の不着、誤渡、遅延、損傷のいずれにも該当しないから、結局、被控訴人らは免責されない。」

七  同六枚目裏六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「また、右のような事情のもとで、被控訴人甲が免責の特約の適用を主張することは、自ら重大な過失を犯しながら、法の認めていない救済を求めるものであるから、権利の濫用というべきである。」

八  同七枚目表二行目の「同日まで」の次に「明示又は黙示の」を加える。

九  同七枚目表四行目から一〇行目にかけての(5)の項全文を次のとおり改める。

「(5) 法一四条ただし書は、運送人に悪意がある場合には、除斥期間の規定が排斥される旨規定している。ここで、悪意とは、運送人が故意に損害を生じさせたか、または損害の発生を故意に隠蔽した場合をいうと解すべきところ、被控訴人乙は、訴外会社が船荷証券を所持していなかったことや、控訴人がバンクL/Gを発行していなかったことも承知していたうえ、前記のとおり平成三年六月二〇日の時点で、控訴人の問い合わせに対して、まだ荷物は保管している旨虚偽の回答をしていたのであるから、被控訴人乙のした本件運送品の引渡には悪意があったものと見るべきであり、被控訴人らに除斥期間は適用されない。

また、本件保証渡については、被控訴人らに右の悪意あるいは重過失が認められるのであるから、約款二五条二項による免責の効力は及ばない。」

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点による判断

当裁判所も、いわゆるシングルL/Gを差し入れさせて行った保証渡は、正当な船荷証券所持人の権利を侵害するという意味において違法であり、被控訴人らに債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任が発生したが、本件船荷証券約款二五条二項の定める除斥期間(同約款二五条二項は、厳密にいえば一年以内に訴権が行使されることを解除条件として右期間の経過により責任が消滅する免責特約を定めたものと解すべきであるが、本件審理の経過にかんがみ、以下、この特約による権利行使可能期間を「除斥期間」という。)が経過したことにより、右責任は消滅したと判断する。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決の理由(第二 争点に対する判断)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八枚目裏一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、右約款二五条二項も、法一四条本文が契約責任に関する規定であって不法行為については適用されないこととの対比において、不法行為に基づく損害賠償責任については適用されないと主張するが、右条項は「いかなる場合においても、運送人は、……一切の責任を免除される。」と規定しているので、不法行為責任を除外する趣旨ではないものと解するのが相当である。」

2  同八枚目裏六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、右条項にいう運送品の「滅失」は、保証渡による引渡を含まないと主張するが、右の「滅失」は、物理的な滅失のみならず、運送品の相対的引渡不能をも含むものと解するのが相当であるから、控訴人の右主張は理由がない。」

3  同八枚目裏七行目から同九枚目表三行目にかけての「(二)」の項全文を次のとおり改める。

「(二) 控訴人は、本件船荷証券約款二五条二項は、運送人悪意の場合には適用されないと主張するが、同項は法一四条ただし書のような運送人悪意の場合を除外する旨の明文の規定を持たず、「いかなる場合においても、運送人は、……一切の責任を免除される。」と規定しているのであるから、悪意の場合にも適用があるものと解すべきである。

控訴人は、また、約款二五条二項が運送人悪意の場合を除外していないとすると、悪意の場合を含め一律に免責を認める点において、法一四条に明らかに反する船荷証券所持人に不利益な特約であるから、法一五条一項により無効であると主張する。

しかし、法一五条三項は、運送品の船積前又は荷揚後の事実により生じた損害については、同条一項を適用しないとしているので、免責についても、公序良俗に反しない限り、いかなる特約をすることも許されるものと解されるところ、改正法一四条一項は悪意の場合を除外した法一四条ただし書を削除しているのであって、このような法の動向から考えても、右改正前にあっても悪意の場合を除外しない特約が公序良俗に反するものといえないことは明らかである。

そうすると、本件保証渡は、運送品が神戸に陸揚げされた平成三年四月八日より後である同月一八日に発生した事実であるから、右約款の規定は、本件保証渡に適用する限りにおいては、法一五条三項に照らして有効なものというべきである。

また、右約款が、不法行為に基づく損害賠償責任をも免責するとしている点も、船荷証券所持人に不利益な特約であるが、同様の理由により、本件保証渡につき適用する限り有効と解すべきである。改正法二〇条の二第一項が運送人の免責に関する一四条の規定を不法行為による損害賠償の責任に準用するとしていることに照らしても、不法行為を免責する特約が公序良俗に反するものといえないことは明らかである。」

4  同一〇枚目裏四行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「更に、控訴人は、被控訴人らが免責の特約の適用を主張することは、権利の濫用であると主張するが、以上摘示した事実に照らすと、被控訴人らの免責の主張が権利の濫用に該当するということができないことも明らかである。」

5  同一一枚目裏三行目の「延長する」の次に「黙示の」を加える。

6  同一一枚目裏八行目から一一行目にかけての「(四)」の項全文を次のとおり改める。

「(四) さらに、控訴人は争点2、(二)、(5)のとおり、被控訴人乙に悪意が存する本件保証渡については、法一四条ただし書により同条本文の除斥期間の適用がないと主張するが、既に説示したとおり、運送品の船積前又は荷揚後の事実により生じた損害については、法一五条三項の規定により、法一四条ただし書の制約を排除した特約を締結することも可能であるところ、約款二五条二項は、運送人に悪意があった場合を含め、運送人による運送品の滅失等についての一切の責任を免除したものであるから、荷揚後の事実である本件保証渡については、被控訴人乙の悪意の有無につき判断するまでもなく、同約款による除斥期間を適用することができるというべきであり、控訴人の主張は採用することができない。

なお、右約款は、運送人自身が運送品を盗取した場合のように、運送人に極めて悪質な行為があった場合は、条理上適用されないものと解されるが、本件保証渡は右の場合に当たらない。被控訴人らに、他に右約款を適用除外すべき事由は認められない。」

7  同一二枚目表六行目の「右使用人らとしても」を「右使用人らの代理人及び受託者としても」と改める。

第五結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅弘人 裁判官 北野俊光 松田清)

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